No.139 “あの問題”におけるニュース報道とドキュメンタリー
アメリカ人監督が、ある日本人にスポットをあてたドキュメンタリー映画を製作した。それはアメリカやカナダのいくつもの映画祭で賞を受賞し、注目を浴びている。 タイトルは『めぐみ−引き裂かれた家族の30年』(日本では11月25日より公開)。そう、拉致被害者横田めぐみさんに関する作品なのだ。
4年ほど前に打診があり、制作がスタートしたこの映画は、クリス・シェリダンとパティ・キムというふたりのドキュメンタリー映画監督コンビによるもの。彼ら自身がめぐみさんの家族の姿を追った映像をメインに、日本で誰もが目にしたニュース映像も数多く収めて構成した。何度も繰り返し見た映像もあるのに、それまでの横田夫妻関連の報道や、日本で作られたドラマとは印象が異なる。日本人とは違う、独自の視点でめぐみさんと家族に起こった事件を見つめているからだろう。図らずも苦難の道を歩むことになってしまったある家族のヒューマンドラマとして、海外の人にもストレートに受け止められるようなものになっている。
もともと日本での公開を前提にして作られた作品ではないため、かえってこの拉致問題について知識の浅い人にもわかりやすい内容。ある日突然、娘を奪われた家族の哀しみ。失踪か、誘拐かと思われていた事件が長い年月をかけて、徐々に真実が明らかになり、それを知ってからの怒り。横田夫妻は「生の姿をさらけ出すことで、ごく普通の人間が(家族の拉致によって)こんなに苦しまなければならないことを表現してくれた」と語っていた。それを裏付けるのが同じく拉致被害者の家族である増元照明さんの「こんなシーン、出していいのか」との映画を見た後の言葉。
著書やドラマ、ニュースでも見せたことのない姿がこの作品にはある。日本人がイメージする娘思いの仲睦まじい夫婦像のほかに、喧嘩や口論する姿も収められている。これはアメリカ人は作品に感情移入するのに出演者のリアルな姿が必要で、記者会見などの公の姿ばかりではダメだということ。もうひとつはアクティビスト(活動家)でも政治家でもないところを知らせるためには、プライベート映像が必要だとの監督の意見によるものだ。
言い方は悪いが、優等生風、支え合うある種の理想的な夫婦像とは別の、もうひとつの夫妻の顔を見せてくれた気がした。が、これはむしろ見る者に親近感を深める結果に。このこと以外にも作品中多くの、ドキュメンタリー映画ならではの表現があるのだが・・・。ニュースでもドラマでもない別の表現方法で、伝えたかったことを伝える。この作品を見るとそれが何か、わかる気がする。 (2006.11.24 発行)
映画『めぐみ−引き裂かれた家族の30年』公式サイト




